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がん検診について

  • ono-naikaclinic
  • 5月19日
  • 読了時間: 5分

 5月から6月は、皆さんのお手元に市役所等から「がん検診」のお知らせが来る時期です。

 がん検診には、胸部レントゲン(結核・肺がん検診)、胃透視(バリウム:胃がん検診)、便潜血(大腸がん検診)、腹部超音波検診、PSA(前立腺がん)、乳がん、子宮がん等があり、玉名市では全て集団検診として行われています。意外に思われるかもしれませんが、これらの「検診」の方法では「早期のがん」を発見することは結構難しいことが多く、あくまでも精密検査を受けてもらうための「きっかけ」を作るものだととらえた方が良いと思います。また、治療中の病気の経過をみるのには「検診」は向いていません。あくまでも医療機関をなかなか受診しない方に対して、受診してもらう動機づけをするのが大きな目的だと考えていただいた方が良いようです。

 「胃がん検診」を例にお話しを進めますと、胃がんの集団検診は、一般の方は「バリウム検査」と言われていることが多いようですが、医療従事者の用語としては、X線を用いた「胃透視検査」あるいは「胃レントゲン検査」と表現しています。この検査は、「硫酸バリウム」という白いドロドロした液体(造影剤)を飲んで胃の中に入れた後、発泡剤を飲んで胃をが膨らませて胃の壁に薄くバリウムが塗られた状態にした状態でレントゲン写真を撮っていくという検査方法で、「胃二重造影法」といいます。この方法は日本で開発され、1970年代に普及しました。当時は胃がんで亡くなる方が多かったので、胃がんの患者さんをなるだけ早く見つけて手術を受けてもらうために、この検査が普及していきました。この検査の利点は、集団で行うことができる(一度に20〜30人を短時間で検査することが可能)ので、たくさんの胃がん患者さんを見つけることができるようになり、手術をして助かる方も多くなりました。しかし、バリウム検査は進行胃がんを多数見つけることはできましたが、早期胃癌を見つけることはなかなか難しい状況でした。そのため、1980年代になって内視鏡(胃カメラ)が普及するに伴い、バリウム検査で直接早期胃癌を見つけるのではなく、バリウム検査の集団検診でふるいにかけた患者さん方に胃カメラを受けてもらう、という方法へと変わっていきました。この方法により早期胃癌の患者さんも見つけることができるようになり、日本での胃がん死亡率は減少していきました。胃がんに関しては、早期の状態で見つけて切除すれば95%以上の治癒率が望めるようになりました。

 最近の研究で、胃がんの発がんにピロリ菌(Hericobacter Pyroli)が密接に関与しているということがわかってきました。ピロリ菌が感染している、あるいは感染していた方の胃がん発現率は、そうでない方と比べて5倍以上であると言われています。そのため、胃がんを早期で発見するには、ピロリ菌感染の有無を調べて内視鏡検査を行う方が効率的であるという研究結果もあります。

 胃がんの発見に「バリウム検査」は大きな貢献をしてきましたが、現在においてその重要性は次第に限りあるものになっていると言わざるを得ません。ならば、どうして「胃がん検診」が今でも行われているのでしょうか?それは、内視鏡検査が「集団検診」に向かないからだと思われます。一度にたくさんの受診者の内視鏡を行うと想定すると、内視鏡検査に慣れた医師(内視鏡専門医等)が複数名以上必要(内視鏡検査は医師しかできないため)でしょうし、内視鏡機器も複数台必要です。それに、内視鏡は使用後すぐに消毒しないと次の方には使えないので、消毒のための機械や消毒する時間が必要となります。また、最近は鎮静剤を使用して検査をすることが多くなってきたので、検査後休んでいただく場所や時間が必要です。そういうことを考えると、集団検診で一度に検査ができる人数は、色んな体制を整えたとしても「バリウム検査」の4〜5分の1くらいの人数しができませんし、検診車であちこちに出向いて検査することもできません。そのため、行政が行う「胃がんの集団検診」は、今でも「バリウム検査」という状況が続いています。

 「バリウム検査」は、集団検診に向いている、という、行政にとっての利点しかなく、受診される側にとってはほぼメリットはないと私は考えます。「バリウム検査」を受けているから胃は大丈夫・・・ということは全くありません。それは、胃カメラに比べて診断精度があまりにも低いからです。それと、放射線被ばくの問題もあります。「バリウム検査」1回の放射線被曝量は、1回の胸部レントゲン撮影の200倍以上といわれています。これは、発がんに関しての放射線被ばく年間限界量の約10分の1を1回の検査で被ばくしてしまうことになります。もちろん、これだけ放射線を浴びたからすぐにがんが発生するわけではありませんが、私どものように職業上の被ばくは仕方がないとしても、一般の方は「余計な」放射線の被ばくは避けた方が良いと思います。地球上で生活している限り、私達は宇宙や大地、食物などから自然に放射線を浴びており、放射線をゼロにすることは不可能ですが、レントゲンを用いた検査はそれ以外の放射線ということになりますので、浴びる放射線の量は必要最小限にとどめておいた方が良いと思われます。

 「逆流性食道炎」や「慢性胃炎」、「ヘリコバクターピロリ胃炎」などの診断を受け、医療機関で投薬を受けていらっしゃる方は、「バリウム検査」ではなく、内視鏡検査を定期的に受けられることをお勧めします。「バリウム検査」では食道は一切みませんので、逆流性食道炎の診断はできません。慢性胃炎、特にヘリコバクターピロリ胃炎の可能性を内視鏡検査で指摘されたことがある方は、内視鏡検査が絶対に必要です。ピロリ菌による発がんを早期に発見するには、内視鏡検査で慢性胃炎の正確な診断をした上で色調の微細な変化などを観察することが必要です。



 
 
 

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